映画『爆弾』感想レビュー|取調室だけで137分“退屈ゼロ”の狂気(ネタバレ注意)
「取調室だけで映画を持たせる?」
と山田君を見に映画館に向かった私の顔面を、スズキタゴサク(誰だよ)が爆弾と共にブン殴ってきたので、興奮と混乱のままここに記す。
映画『爆弾』(監督:永井聡)は、なんかこう、全体的にヤバい。いろんな意味でヤバい(語彙よ)。
まず率直にめちゃくちゃ面白かった。
とにかく、佐藤二朗が凄まじすぎて、もう「今日から俺は!」を見れそうにない。
あまりに衝撃が強すぎて、以下、ネタバレ注意で感想を語る。
映画『爆弾』基本情報
🎬 映画『爆弾』基本情報まとめ
- 公開日:2025年10月31日(金)
- 上映時間:137分/PG12/日本映画
- 原作:呉勝浩『爆弾』
- 監督:永井聡
- 出演:山田裕貴(類家)、伊藤沙莉(倖田)、佐藤二朗(スズキタゴサク)
あらすじ
物語はこうだ。
ある夜、飲酒暴行事件で逮捕された中年男・スズキタゴサク(自称)が、警察の取調べ中に「東京に爆弾が仕掛けられている」と霊感予告をかます。
最初は戯言かと思いきや、時間通りに爆発が起こり、一転して緊迫の捜査モードへ。
スズキは不敵に笑いながら「あと3回爆発するよ〜ん(意訳)」と煽りつつ、刑事たちを謎解きゲームへと引きずり込んでいく。
感想・見どころレビュー

取調室×137分×神演技=退屈ゼロ
舞台はほぼ取調室。それだけ聞いたら「密室劇?さすがに持たんやろ…」と身構えるが、
気づけばこっちが“取り調べられてる側”になってるという不思議な没入感。
テンポ、緊張感、セリフの圧で、椅子から離れられなくなる。
タゴサク=佐藤二朗の怪演、強烈すぎ
タゴサク。
その名を聞くだけで思い出す、黒目がちの狂気と、神経を逆なでする語り口。
佐藤二朗、今回まじで人間じゃない。俳優じゃなく“現象”としてそこにいた。
彼の言葉ひとつひとつが地雷。しかも、“比喩じゃなく本物の地雷”踏ませてくる。
爆発したのは電車だけじゃなく、こっちのメンタルや倫理観もだったわ。
しかもただの狂人じゃない。タゴサク、明らかに**「わかっててやってる」**。
演じてるようで演じてない。煽ってるようで本気。
「命の価値って平等?」深すぎる問い
タゴサクの、「人の命が平等って欺瞞じゃない?」という問いかけ。いかにも厨二なのに、なぜか胸に刺さる。倫理観を揺さぶられ、観客自身の価値観を問われる。
このセリフ、今回のこの映画の核心なんかなとも思う、トップクラスに凶悪。
正論じゃない、でも否定しきれない。自分の価値観をぐいっと引きずり出された感じ。
山田裕貴の「知性」と「中二感」
山田くんの役(類家)は、ただのイケメンじゃない。
「煽り力」×「頭脳」×「闇属性」の三位一体、つまり最強。
「俺に会ったこと、後悔するよ?」とか、中二全開のセリフを恥ずかしさゼロでキレキレにキメられるの、逆に天性の素質。
しかもあの丸眼鏡とスーツで完全武装。
“心の傷をスーツで隠してるダークヒーロー系男子の権化やん?
正直、ここまでは完全に「山田のターン」だった。
観てるこっちは「そのセリフもっと言って!!できれば耳元で!!!」と膝抱えて願ってた。
伊藤沙莉の“怒り芸”と、タゴサクの変態反応
怒りの芸術展、開催されました。
あのシーン、ただ怒ってるんじゃないの。「許せなさ」+「それでも諦めたくない信念」+「踏みにじられた正義」が混ざった表情なの。
それを全顔面から絞り出す演技、ガチで凄かった。
で、そんな彼女の怒りにタゴサクが……震えて“快感”を覚えてる”っていう地獄の演出。
しかも「出ちゃった⭐︎(意訳)」て!!!!!
お前何を快感にしてんだよ。
恐怖・怒り・絶望……人間の剥き出しの感情を「観察」して悦ぶド変態…
でもこれ冷静に見ると、
“演出家”気取りのサディストってとこが、タゴサクの本当の恐怖だよな。
あ、いや、ドMか。
ごめん、途中トイレ行った
ここで正直に言う。
私、残り30分でトイレ行った。爆弾より先に、私の膀胱が限界を迎えた。
しかもそのタイミングが最悪。タゴサクが「真実」を語り出す、あの激アツネタバレタイムに爆散。
戻ってきたら状況が爆速で進行してた。
つまり私は、トイレ行ってる間に“核心”をすっ飛ばした観客代表です。
ありがとう、ポップコーンの塩分。恨むぞ、アイスティー。
だから、ここから先は肝心なところを飛ばして最後を見てしまった私の、考察推論&ネタバレタイムです
未鑑賞の方はここでUターン推奨。観た人は一緒に爆発しよう💣
↓
考察(ネタバレあり)
トイレで“核心”を逃して最後を見てしまった私の、考察推論&ネタバレタイムです
フェイク・伏線・嘘のトラップワールド
あの書記官の彼ね。
タゴサクが「友達だからコッソリ…」って言い出したあたりから、もう詰んでた。
- 「出世欲を刺激する」
- 「スマホ取ってきて」→ 爆弾起動
- でも爆散は、電話を受けた警官。
この「信用させて、罠張って、爆殺は別の人」という構造
まじで地雷を感情に仕掛けるサディズムの見本市。
書記官の子を「唯一の味方」と見せかけて完全に駒として使い捨て。
“みのりちゃん”という悲劇を構築して同情を誘い、
「あなたにだけは本当のことを言う」=全員を騙す常套句で信頼を爆破する。
観てる側の気持ちもガンガン操作されて、それ自体が伏線として回収されていく構造。えぐい。
タゴサクって何者?ただの浮浪者ではない
登場した時は「ホームレス風の不審者」。
でも霊感とかいいだして、すぐに空気が変わる。あの目、喋り方、間の取り方。
- 論理の組み立てが異様に早い
- “心を開いた風”に見せかける芝居。
- 人の感情を操るスキルが異常に高い。
- 自分の役割を“演じること”に快感を持ってる節がある。
明らかに「社会的に何かをやらかした or 属していた人間」なんよな。
過去に何者だったのか一切明かされないからこそ、『こいつなんなん』がずっと残る。
その中でも異様さのピークが、2回戦=山田裕貴(類家)との知的バトル。
二人の間だけ、“同類同士の探り合い”感が異常に濃かった
「本気の怒り」=同族嫌悪+自己否定
類家に対して一瞬、タゴサクが本気でブチ切れた場面がある
あそこ、明らかにいつもの煽り芸とはトーンが違った。
なぜか?
たぶん類家って、タゴサクとめちゃくちゃ似てるけど、根本で正反対の人間なんよ。
- 類家は「論理と知性」で全てを俯瞰して見る冷静人間。
→ この世界を「退屈」と思ってるのもタゴサクと同じ。 - でも彼は、その“虚無”に抗おうと、正義の側に立ってる。
一方のタゴサクは、
「どうせ世界なんて壊れてる」と達観し、
壊す側に回ることでしか、自分の存在を確かめられなかった。
だからこそ、あの場面がめちゃくちゃ人間くさい。
演じることに快感を覚えてるはずのタゴサクが、類家の正義を前にしたとき、同族嫌悪と自己否定が同時に爆発した瞬間だった
結局、誰が主犯?目的は何だったの?
おそらく・・・
- 実行犯の起点=辰馬(警察官の息子)
- 父の不正→報道→一家崩壊→復讐へ
- それを止めようとした母=石川明日香
- 息子を殺した(と思われる)
- でも罪悪感と恐怖で、誰かに頼らざるを得なかった
→ で、そこに出てくるのが、
スズキタゴサク(お前誰だよ)。
問題はここ
「相談されたから爆弾仕掛けます」ってなるか?
ふつう、ならん。でもタゴサクはなる。
なんでや
世界を”演出”したかった男
タゴサクには、「未完の計画を、より劇的に、より社会的に意味のある“事件”に仕立てたい欲望」があった。
辰馬の爆破計画はあくまで私怨。
しかしタゴサクはそこに社会全体を揺るがすショーとしての爆破を上乗せする。
- 動機A:明日香からの相談(他者の罪)
- 動機B:世界への不信(自己の空虚)
- 動機C:主犯になることでしか存在証明できない承認欲求
この3つが重なって、
「じゃあ俺が世界に爆弾落とすわ」となったのがタゴサク。
ただ同級生のためってより、社会への告発と、自分への承認の爆破装置だった。
代行に見えて「主犯でありたかった」
彼は復讐の代行者じゃない。
「この事件をどう語り継がせるか?」まで計算して爆破してる語り部=演出家=主犯。
ラストの「今回は引き分け」というセリフもその証拠。
まだ全然、類家とやる気まんまん。だってまだ最後の爆弾は見つかってない
もう一回観る。今度はトイレ行ってから
いろいろ語ってきたけど、正直一度観ただけでは足りない。
モヤモヤも疑問も山積み。
でも、だからこそもう一度観たい。いや、もう原作読むわ。
原作読んで、思いっきり外れてたらハズいな(笑)それも含めて“爆弾”を体験した自分の感情として残しておきたかったんや。
まとめ|取調室だけで心を爆破された137分
取調室という“動かない空間”で、ここまで心を揺らされるとは思わなかった。
佐藤二朗の狂気、山田裕貴の理性、伊藤沙莉の激情——その全部がぶつかって、
観る側の倫理と感情をまとめて爆破してくる。
空間は狭いのに、問いかけてくるテーマはでかすぎる。
「正義って何?」「命に優劣ってある?」その答えは、タゴサクのあの気味悪い笑みの中で霧散する。
タゴサクのしゃべり。類家のペンクルクル。
意味があるのか、ないのかもわからないまま、記憶にこびりつく。
観終わって思うのはただひとつ。
「もう一度観ないと、こっちの気が済まない」——それがもう爆弾よな。
関連・おすすめ作品(似てるテーマ好きに刺さる!)
『爆弾』を観て「正義って何?」「人の命の価値って?」とモヤッとした人に。
ここでは、正義と狂気の境界線を描いたおすすめ作品をいくつか紹介する。
原作小説
『爆弾』(呉勝浩)
→ 映画の原作。
一度読むと、映画のあの台詞がまったく違う意味に聞こえる。たぶん。
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正義と狂気の境界系
『DEATH NOTE』(大場つぐみ・小畑健)
→ “正義”を語る者が、“神になりたい欲望”に支配されていく物語。
タゴサクと月(ライト)は違うようで、自己正当化と承認欲求の化け物として共鳴してる。
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『モンタージュ 三億円事件奇譚』(渡辺潤)
→ 正義・家族・国家の嘘が絡み合う犯罪サスペンス。
社会への絶望から生まれる犯行動機が、『爆弾』の虚無感と地続き。
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『イキガミ~国家による命の告知書~』(間瀬元朗)
→ 「命の価値は平等か?」を、制度として可視化した世界観で描く超問題作。
一話完結形式だけど、毎回感情をえぐられる。泣けるし、正義が怖くなる。
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心理戦・取調室系
『22年目の告白-私が殺人犯です-』(藤原竜也・伊藤英明)
→ “告白”をショー化し、観客を巻き込んでいく演出型犯罪。
『爆弾』の「世論を利用する演出家」的側面と重なってゾクッとする。
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『死刑にいたる病』(主演:阿部サダヲ)
→ 言葉と狂気で人を殺す、見えない支配の恐ろしさを描いたサイコサスペンス。
阿部サダヲの静かな狂気が、タゴサクの“操作する快楽”とリンクしすぎて震える。
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